ホールプロダクトによるマーケティング戦略の完成形

ハイテク製品のマーケティングのコアになる考え方として、ホールプロダクトモデルがあります。ハーバード大学 セオドア・レビット博士が提唱したホールプロダクトモデルについて考えることで、自社の商品やサービスをより洗練されたものにできるため、新たなマーケットを開拓するためにも詳しい意味について説明していきます。

ホールプロダクトとは

ホールプロダクトとは?

ホールプロダクトとは、1960年代にアメリカ人のT・レビットが論文で提唱した考え方で、ホールには「完全」という意味合いがあります。そのため、ホールプロダクトを日本語訳すると「完全な製品」と訳されます。顧客が企業に対して、製品にお金を払うことで期待する機能と、実際に提供できる機能とでは、常に大きな差があります。

買い物をしていると、これだけのお金を払ったのだから、これだけの機能や効果は得られるだろうと考えた事はないでしょうか?つまり、これが企業と顧客の間で生じる考え方の乖離です。企業が顧客に対して提供できる技術と期待される効果や効能によって発生する溝を埋めなければ、いずれ人は離れていってしまうでしょう。顧客の期待によって発生する溝を埋めるためには、補完サービスや補助製品を提供していく必要があります。

顧客の満足度を上げるために、補完サービスや補助製品を生み出し続けることができれば完全な製品(ホールプロダクト)を自社から誕生させられるでしょう。

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ホールプロダクトによるマーケティング戦略

完全な製品を世の中に送り出すことを目的としたホールプロダクトでは、4つの基本要素が大切だとされています。これから、4つの基本要素について、説明していきたいと思います。

①コアプロダクト
②期待プロダクト
③拡張プロダクト
④理想プロダクト

上記の4つの基本要素がホールプロダクトを構成しており、理想の商品やサービスを目指していくうえで必要な要素とされています。ホールプロダクトについて詳しく知らない方のために、簡単な言葉の概念から丁寧に説明していきたいと思います。

① コアプロダクト

コアプロダクトとは、企業が最初に出す製品のことを表します。

② 期待プロダクト

自社の商品やサービスに対してお金を払う見込み客は、「お金を払ったのだから、多様な機能やサービスを手軽に利用できるのでは。」と期待します。期待プロダクトとは、商品やサービスに対する顧客の期待や要望から形成されたものを表す言葉です。例えば、掃除機を購入したとしましょう。送られてきた掃除機の箱の中には、分かりやすい操作マニュアルが必ず入っています。これは、顧客が入っていて当然と考えるからこそ、分かりやすい説明書を掃除機と一緒に入れています。他にも、インターネット回線を契約した時は、アフターサービスが付属していて当たり前だと感じるのではないでしょうか?つまり、これは顧客がインターネット回線事業者のサービスに期待しているこということです。この期待がサービスとして形になったのが期待プロダクトです。

③ 拡張プロダクト

上記のコアプロダクトの拡張機能を表す言葉で、補完サービスや補助製品など顧客がその製品を購入した目的を満たすことができる製品やサービスがこれに該当します。例えば、コピー機だとWiFi機能を利用した通信機能であったり、スマートフォンであれば、GPSを利用したナビであったり、ウォークマンのラジオ機能などが拡張プロダクトに該当します。まさに、コアプロダクトを拡張した結果、そこからオプションとして形になったものを拡張プロダクトと表します。

④ 理想プロダクト

ホールプロダクトの最終形態である理想プロダクトは、補助製品や補完サービスが完全に出揃った状態であり、ほとんど不足がない状態を表します。ありとあらゆる機能が出揃い、すべての要望を満たすことができる製品のことをホールプロダクトでは、理想プロダクトと言います。しかしながら、世の中に送り出されている製品の中で理想プロダクトに到達したものはほとんどないとされています。もし、理想プロダクトに到達することができれば、市場の中で圧倒的なポジションを獲得できるとT・レビット博士は説明しています。

ホールプロダクトの成功例

ホールプロダクトの中でも理想プロダクトに近いと感じたApple社「iPod」の成功事例について紹介していきたいと思います。どのようにiPodが理想プロダクトに近い商品を形成していったのか具体的に理解できるようになります。2001年にAppleは「iPod」を世の中に初めて送り出しました。当時、市場では既にMP3プレーヤーが数多く出回っており、特に優れた機能を有しているわけではありませんでした。機能も持っている音楽CDをコンピュータでMP3フォーマットに変換して取り込んで再生するだけのどこにでもありそうなものです。それにも関わらず、通勤やジョギングで、英会話や音楽を楽しみたい人に受け入れられました。音楽プレーヤーの機能は、他社と同じようなものであるにも関わらず、なぜ受け入れられたのかというと「iTunes」というデジタルオーディオライブラリーソフトをiPodと一緒に発表し、多様なオプションを充実させたからです。

OS上の不足を補いWindows版をリリース

「iTunes」は、Apple社の製品上でしか動かなかったため、Windowsユーザーは利用することができませんでした。しかし、Windowsユーザーからの要望にこたえるために、2003年にはWindows版をリリースして、テレビ番組や音楽、映画のオンラインショップ機能が搭載された「iTunes Music Store」やインターネット放送機能「Podcast」、ビデオレンタル機能、ビデオ再生機能など、様々なオプション機能を次々と発表していきました。まさに、ホールプロダクトで説明すると拡張プロダクトを充実させていったということです。他にも、スポーツメーカーのナイキと組んでiPodを搭載したランニングシューズを開発したり、アメリカで販売される全ての車に対してiPod用の端子を標準搭載したりするなど、他社では導入されていないことを次々と実施し、同業他社を圧倒していきました。上記以外にもiPod用のケースや、iPodのドック機能を生産することで、ユーザーの要求を満たす何千種類もの周辺機器が世の中に送り出されていきました。

ホールプロダクトが同業他社を圧倒する理由

当時、MP3プレーヤー単体とiPodを比較した場合、前者の方が高品質で耐久時間や音質など機能面についても上回っていました。この場合、誰もがMP3プレーヤー単体が市場を独占し続けることになると感じたと思います。しかし、現実は、MP3プレーヤーよりも機能が低いiPodの方が市場を独占することになりました。iPodは、本体性能よりもホールプロダクトをいかに充実させるかを重視した結果、オプション製品においてどの企業もApple社と肩を並べることができず、iPodが2010年までの9年間で2億5000万台の販売数を突破しました。顧客の抱える問題をオプション製品という形で表現し、ホールプロダクトを多数取りそろえたことで、「iTunes」も音楽ソフトの販売で世界一という驚異的な結果をたたき出しました。

コアプロダクトから補完サービスや補助製品を考える

ホールプロダクトの理想プロダクトに到達することは決して簡単なことではありません。かといって、理想プロダクトに到達することを諦めたら、消費者の要望を満たすことができないマーケティングを展開してしまうでしょう。iPodでも何千を超える周辺機器が販売されたのですから、考え方次第では、無限に形にできるアイデアが見つかっていくでしょう。

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