アンカリング効果の意味やマーケティングとの関係について解説

アンカリング効果は人間の認知バイアス(認知のゆがみ)の一つとして心理学や行動経済学の世界では非常によく知られている現象です。これは最初に提示されたものの特徴や数値、価格によって、後に提示さるものの数値の判断がゆがめられ最初に提示されたものに近づく傾向のことを指しています。今回はこのアンカリング効果についてご紹介します。

アンカリング効果は心理学の言葉

アンカリング効果は心理学の言葉

消費者が商品やサービスを購入するかどうか考えるときに決め手となるのは必ずしも合理的な理由ではなく、むしろ、いろいろな要素によってもたらされた主観や感情に左右されることが多いのです。マーケティングにおいてもアンカリング効果を意識した手法を使えば、消費者の購入における意思決定の場面で非常に強い影響を与えることが可能になるのです。

アンカリング効果の意味

消費者が何かを購入しようと思ったとき、さまざまな比較要因を頭の中に描いて評価をします。ここでの比較要因に用いられるのは、似たような商品の品質や価格、口コミや、実際に使った場合にどうなるかという体験に関する想像、購入で得られるメリットと失う金額の損得など多岐にわたります。そういった情報はときにあやふやで、いともたやすく思考からこぼれ落ちていきます。しかし、その中で消費者が特別に明確に持ち続ける強力な判断要素があります。それは商品の「価格」です。

消費者は最終的には損得を考慮して、その商品を購入するかどうかの決断を行います。そして、強力な判断要素である価格の中で、最も消費者の頭の中に残って影響を持ち続けるのが「最初に目にした価格の数字」です。アンカリング効果とは、まさに、この「最初に目にした価格」によって働く心理効果なのです。

人は最初に提示された数字が強く印象に残ってしまい、その情報を前提条件としてしまいます。そのため、その後に続く数字との比較や優劣、損得の判断は、いずれも最初に提示された数字やその印象に依存したものになってしまうのです。つまり、最初に提示する数字を調整することで、最終的に消費者に望ましい判断を下させることができる、と説明しています。

アンカリング効果という言葉の語源

アンカリング効果は英語では「Anchoring effect」です。アンカー(Anchor)は船の錨(いかり)のことで、Anchoring(アンカリング)は錨を使って船を係留することです。船は停泊するとき、海底に錨を降ろしてどこかに流されてしまわないように船体の位置を固定します。波や潮で多少動くことはあっても、錨に結びつけられた鎖の長さを超えて移動することはありません。錨で固定された地点から離れられなくなってしまうのです。

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同じように、最初に提示した情報が錨を降ろした地点として意識の中で固定され、その後の思考が最初の情報から離れられなくなってしまうことがアンカリング効果です。

自分の意思で判断しているつもりでも、それは錨につながれたチェーンが届く範囲内で選択しているに過ぎず、錨で固定された最初の情報の枠組みから離れることができません。また、実際の錨が水中にあり地上や水面上からは見えないのと同じように、私たちは自身に打ち込まれた“錨”を普通は意識することはありません。このように、アンカリング効果には無意識のうちに思考を操作してしまうような強い力があります。

行動経済学の世界的権威でノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン氏が、心理学者のエイモス・トベルスキー氏との共著で1974年に米学術誌「サイエンス」に掲載した論文でアンカリング効果について解説しており、この現象が世界的に知られるようになりました。

アンカリング効果とマーケティングの関係

このアンカリング効果はマーケティングの手法として現在でも頻繁に使われています。ここではマーケティングにおいてアンカリング効果を活用する方法について見ていきます。

アンカリング効果はマーケティングに応用できる

マーケティングにおいては最初に大きな数字を提示して、後で出した数字を小さく感じさせる手法が定番として行われています。これはアンカリングの効果を利用して価格表示で多く使われる手法で、最初に高い金額を表示すれば、後で出した金額が割安に感じられるというしくみです。

また、その逆に最初に小さな数字を出して、その後に出した数字を大きく感じさせる手法もあります。サイズや容量、補償金額、保証年数など数字の大きさに価値がある場合にはこちらの手法が使われます。

アンカリングの効果は数値の比較対照だけではなく情報そのものにも及びます。例えば歴史や伝統がある、高度な技術が使われているなどの情報を最初に提示することで、その商品に対する基準点を高めることができるのです。

さらに、何の関係もない単なる数字を見せただけでもアンカリング効果が生まれることが検証されています。カーネマン氏らが先の論文で発表した内容によると、10と65しか出ないように細工したルーレットを使って、被験者に数字を記録させた後に「国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合」について質問したところ、10と記録した人は平均で25%と答え、65の人たちは平均で45%と答えたというのです。これは大きな数字がアンカーとなって、後の質問への回答に反映されたということです。

この現象を応用すれば、例えばカタログの商品説明、売り場のPOPやWebサイトのコピーにさりげなく大きな数字を加えるだけで、それが商品と無関係であっても商品の価値を高く見せるような印象付けができる可能性があるのです。

アンカリング効果が見られる例

最も多くアンカリング効果が使われているのは、やはり価格表示です。最初にメーカー希望小売価格や通常の販売価格の大きな数字を出しておき、それを打ち消す形で最初よりは低い数字の実際の売値を見せるという手法です。この手法では元の大きな価格がアンカーとなって、実際の販売価格を安く感じさせることができます。また、ハイグレードの商品を目立つようにアピールし、これをアンカーにすることで普及価格帯の商品の購買を促すという仕掛けもできます。

最初に高い金額を提示するという方法は、レストランやサービスなどのメニューやコース設定でも生かされています。高いメニューをあえて設定した上で、それより低い価格のメニューを並べると、低い価格帯のお得感が高まりオーダーされやすくなるのです。

店舗を豪華な内装にすることもアンカリング効果を狙って行われる手法の一つです。入った瞬間に豪華な内装を見た消費者に「この店は高級店だ」という基準点が生まれるため、商品価格が高くても納得して購入するようになります。入り口からすぐの場所に商品のうちの高級品を目立つようにディスプレイする手法も同じ理屈です。

価格のアンカリング効果に関する注意点

このように、アンカリングを絡めて価格を設定する「二重価格表示」はマーケティングにおいて非常に高い効果を得やすく必須のテクニックといえます。しかし、注意しなくてはならない点もあります。景品表示法では「二重価格表示」で不当な価格を元の価格として表示することを禁じており、過去に摘発された例もあります。消費者庁のガイドラインでは二重価格表示の比較対照として過去の販売価格、メーカー希望小売価格、ライバル店の販売価格などは認められるとしていますが、いずれもカタログに記載されていたり販売の実態があったりすることが求められています。

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